真夏でもひんやり冷たい、透明な湖。芝生に寝転ぶ人、湖に飛び込む子どもたち——チューリッヒから電車で30分の街「ツーク(Zug)」の夏は、地元の人たちがそれぞれのペースで湖畔の時間を楽しんでいます。観光地化されていないこの街で味わえるのは、都会の喧騒から離れた自由でリラックスした夏。この記事では、地元の湖水浴スポット「Badi」から足漕ぎボート、クルーズまで、ツークの夏の過ごし方をご紹介します。
▷ 秋〜冬にツークを訪れる方へ
この記事は夏の湖水浴やボート遊びが中心です。落ち着いた湖畔散歩やカフェ巡りを楽しみたい方は、こちらの記事もどうぞ。
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そもそも「Badi(バディ)」って?
本題に入る前に、少しだけ前提の話を。スイスでは、湖や川のほとりにある水浴施設のことを、親しみを込めて「Badi(バディ)」と呼びます。ドイツ語の「Badeanstalt(水浴施設)」を、スイス独特の言い回しで縮めた呼び名です。多くが入場無料、または数フランほどで、更衣室やシャワー、売店まで備わった、地元の人にとって夏の定番スポット。
ただし監視員のいる湖水浴場は夏季限定で、営業はおよそ5月中旬から9月中旬すぎまでの約4か月間。ツークでは「母の日の前の土曜日」から「連邦祈祷日(9月第3日曜)」までと決まっています。ツークに限らず、スイス各地の湖畔や川沿いに数えきれないほど点在していて、夏になると老若男女が思い思いに過ごしています。
日本の海水浴場やプールとは少し雰囲気が違い、泳ぐ人もいれば、芝生で一日中本を読んでいる人もいる。「何かをしてもいいし、何もしなくてもいい」——そんな自由さが、スイスのBadiの魅力です。
ツークには、そんなBadiがいくつもあります。今回は私が実際に訪れた2つを紹介します。
Strandbad Zug — 公園のように整った、のびのびBadi

まず訪れたのが、Strandbad Zug。入場無料とは思えないほど公園のように整備されていて、遠浅の湖が広がります。入り口から奥へ進むと、子ども用の浅いプールもあり、小さな子ども連れの家族も多く訪れていました。大人は芝生や木陰に寝転んで本を読んだり、おしゃべりを楽しんだり、湖で泳いだり。思い思いの過ごし方ができます。
私はこの、何をしても、何もしなくてもいいような、ゆるやかな空気がとても気に入りました。最初は一人だったので、荷物を置いて湖に入るのを少しためらいましたが、日差しの暑さに負けて結局ざぶんと。一人で来ている人も普通にいて、一人だからと変な目で見られることもありません。

気温は最高30℃ほどありましたが、湖の水温は思いのほか冷たく、体感で22℃くらい。スイスの湖は真夏でもひんやりしていることが多いので、心の準備をしておくといいです。ゆっくり体を慣らしていくと、泳げるくらいにはなじんできます。湖には木製の浮き休憩所が浮いていて、そこまで泳いでみようと思ったら意外に遠く、途中で足がつかなくなって少し怖い思いをしました。無理は禁物です。
それにしても、水の透明度には驚きました。泳いでいると自分の手が水の中で澄んで見え、浅いところを歩けば足元まではっきり見えるほど。この透明感は一度体験する価値があります。
更衣室やシャワー、ロッカーも完備。軽食やアイスを売る売店もあります。アクセスは、ツーク駅(Zug)ではなく一駅隣のZug Schutzengel駅で降りると、そこから西へ徒歩4〜5分(約250〜300m)。バス4番やシュタットバーンS1でも行けます。この駅を使うのがいちばん近くておすすめです。
Seebad Seeliken — 歴史ある、こぢんまりBadi
もう一つ訪れたのが、Seebad Seeliken。こちらはStrandbad Zugよりもぐっとこぢんまりしていて、岸から急に深くなるので注意が必要です。小さいながらも飛び込み台やデッキ、芝生エリアがあり、落ち着いた雰囲気。地元の人の中には、足に目立つ浮き(ブイ)をつけて深いところまで泳いでいく人もいました。遊泳エリアは黄色い浮きで区切られているので、その中で泳ぐのが安心です。
シャワー、脱衣所、ロッカー、トイレは遊泳シーズン中は無料で使えます。ちなみにこのSeelikenは1882年開設という、ツーク州でもっとも歴史ある湖水浴場(Seebad)。昔の木造の男性用更衣室は今では州の文化財に登録されているほどで、歴史を感じられる場所でもあります。
スイスのBadiで驚いた「着替え文化」
スイスのBadiで印象的だったのが、着替えのスタイルです。多くの人が水着を服の下に着てきていて、泳いだあとはバスタオルで隠しながらささっと着替えてしまいます。更衣室のないBadiでは私もそうしましたし、更衣室があるBadiでも、最初は場所がわからずタオルで着替えたことがありました。
でも、これがスイスでは「普通」なんです。更衣室があっても軽装で来る人が多く、屋外でタオルを使ってさっと着替えるのが、ごく一般的なスタイル。だから、もしあなたがタオルで着替えている人を見かけても、それは更衣室が見つからなくて困っているのではなく、それが現地の当たり前の光景なのです。水着を服の下に着ていけば、着替えの悩みはほとんど解消します。ぜひ現地流で。
地味に困った:Herren/Damen問題
Badiのトイレは表示がわかりにくいものが多かったので、困らないように男女のドイツ語表記(ドイツ語圏なら)は最低限覚えておくと良いと思います。余裕があれば他にも役立つドイツ語表記を参考にしてみてください。
| ドイツ語 | 意味 |
|---|---|
| Herren / Damen | 男性用・女性用 |
| Garderobe / Umkleide | 更衣室 |
| Dusche | シャワー |
| Toilette / WC | トイレ |
| Spind / Schliessfach | ロッカー |
| Kein Zutritt / Betreten verboten | 立入禁止 |
足漕ぎボート — 湖上でひとやすみ
| レンタル | 30分〜(30分単位・予約不可/先着順) |
| 料金 | 4人乗り1台。平日:30分26CHF/1時間34CHF、週末・祝日:30分32CHF/1時間39CHF |
| 持ち物 | パスポート(IDデポジットに必須)、水着、タオル、日焼け止め、帽子、サングラス |
日本でも池でよく見かける足漕ぎボートが、スイスの湖でもレンタルできます。白鳥の形……ではありませんが、4人乗りでパラソル付きのものが多いです。料金は1台あたり何時間でいくら、という体系。私がツークで借りたときは1台1時間34CHF(当時のレートで約7,000円)と、なかなか強気なお値段でした。
レンタル店のお兄さんは、説明を始める前に「ドイツ語と英語、どっちがいい?」と確認してくれる親切さ。英語で注意点を説明してもらい、同じ内容の説明書き(英語)を自分でも読んで、サインをします。名簿にはフルネーム・電話番号・サインを記入。帰着予定時刻などが書かれた紙を袋に入れて渡してくれます。
そしてデポジットとしてIDを預ける必要があります。旅行者ならパスポートを持ち歩いていることが多いと思いますが、これを忘れると借りられないので要注意です。
最初に受け取った紙を、今度はボート乗り場にいる別のスタッフに見せると、好きなボートを選ばせてくれます。「パラソル付きがいい」と言ったら「全部付いてるよ」との返事。乗り込むともう一度、注意点の説明。ここから50m以上離れないこと、遊泳エリアに入らないこと、釣り船などに気をつけること。あとは舵を取りながら、自分たちで漕いで進みます。

岸からある程度離れたら、ボートから湖に飛び込んだり、周りを泳いだりして遊びました。飛び込んでいるのはたいてい小さな子どもたち。私も真似して飛び込んでみたら、その反動でボートが後ろにぐんぐん流れていってしまい、泳いで追いかけるはめに。大人が飛び込まない理由がよくわかりました(笑)。
いい天気で日差しが強かったので、冷たい湖が最高に気持ちいい。湖で涼んで、日に当たって暑くなったらまた湖に入る。この繰り返しが本当に贅沢でした。時間が近づいたら、水着のまま借りた場所へ返却に。周りに水着姿の人がいなくて少し恥ずかしかったので、人の少ない道を選んでビーチに戻りました。
クルージング — スイストラベルパスで楽しむ湖上の旅
| 所要時間 | ツーク→カーム 約18分 |
| 料金 | 通常16.60CHF/半額カード8.30CHF/スイストラベルパスは無料 |
| 持ち物 | 帽子、サングラス、日焼け止め(日差し対策必須)、トラベルパス/乗車券 |
| 探し方 | SBBアプリで検索。船の便は「BAT」表記+船アイコンが目印 |
ツーク湖のクルージングはあまり知られていませんが、実はスイストラベルパスを持っていると無料で乗れます。
ここで少し、スイスの交通パスについて補足を。スイスには旅行者向けのお得な乗車パスがいくつかあり、なかでも代表的なのが「スイストラベルパス」と「半額カード」の2つです。
スイストラベルパス(Swiss Travel Pass)は、選んだ日数(3・4・6・8・15日間)のあいだ、スイス全土の鉄道・バス・船が乗り放題になる旅行者専用のパス。多くの湖のクルーズも対象で、ツーク湖の定期船もそのひとつです。つまりパスを持っていれば、このクルーズは追加料金ゼロで乗れます(一部の登山鉄道などは割引扱い)。購入方法はこちらの記事で詳しく紹介しています。
一方の半額カード(Swiss Half Fare Card)は、その名のとおり鉄道・バス・船などの運賃がおおむね半額になるカード。乗り放題ではなく都度払いですが、1回ごとの運賃が50%オフになります。ツーク湖のクルーズなら、通常16.60CHFのところ半額カードで8.30CHFに。滞在が長め、または移動がそこまで多くない人はこちらが向いています。
運航しているのは「Schifffahrtsgesellschaft für den Zugersee(SGZ/ツーク湖船舶会社)」という会社です。
ここで一つ、つまずきポイントを。私は事前にネットで時刻表を調べようとしたのですが、なかなか見つけられませんでした。理由は、SGZ公式サイトの時刻表が「一周ルート(Grosse Rundfahrt)」の発着時刻で表記されていて、日本の路線バスのような「ツーク→カーム 何時発」という区間表記になっていないから。
解決策は、SBB(スイス国鉄)の乗換案内アプリで出発地と目的地を入れて検索すること。すると船の便も出てきて、そのままチケットも買えます。ただし検索結果には電車やバスも一緒に並ぶので、船が埋もれて探しにくいのが難点。船の便は「BAT」という表記(船のアイコン付き)が目印なので、それを探すと見つけやすいです。
私は乗り場に直接見に行って、いちばん近い時間のお昼の便に乗ることにしました。スイストラベルパスで乗れることを確認し、「空いてる席にどうぞ」と言われて乗船。ランチタイムの便で地元の人がたくさん乗っていて、少し場違い感がありましたが、船内にレストランがあるので、食事目当ての乗客も多いようです。
目的地は隣町のCham(カーム)。ツークからカームまでは船で18分ほどと、気軽なミニクルーズです。青空とエメラルドグリーンの湖の上を、風を切って進む爽快感は格別。ただし日差しがとても強く、ずっと日に当たっているのはなかなかこたえるので、帽子・サングラス・日焼け止めは必須です。

カームからツークへは電車で7分ほどなので、「ちょっとだけクルーズを体験してみたい」という気軽な楽しみ方ができます。片道だけ船、帰りは電車、という組み合わせがおすすめです。
何もしない贅沢を、ツークで
私はツークの湖が大好きです。冬も夏も、それぞれに素敵な表情を見せてくれます。特に夏は、湖畔を散歩したり、木陰のベンチで休んだり、湖で泳いだり、楽しみ方は無数。ヨーロッパの夏は夜が長く、多くの人が湖畔で遅くまでのんびり過ごしています。その居心地の良さは、一度味わうと納得するはずです。
何かをしてもいいし、何もしなくてもいい。そんな自由で気ままなバカンスを味わいに、ツークを訪れてみてはいかがでしょうか。
▷ 冬のツークも参考に
地元で愛されるカフェ、スイス銘菓のお土産選びなど、落ち着いた季節の過ごし方はこちらの記事が参考になります。ツークを訪れる時期を問わず、あわせて読んでみてください。
→静かな湖畔散歩とカフェ、スイス銘菓のお土産